ほんとーく

2016年12月28日

ガラガラ石畳 vo.13

garakanban
 

 

この連載が本になりました『本日の栄町市場と、旅する小書店』
 

 

クリスマスが終わって、また急に寒くなった。
おかずの店「かのう家」の温かいキムチスープが冷えた体に染み渡る。
肉屋の前には行列ができていて、もうすぐ正月なんだなぁと実感する。今年が終わる寂しさと新しい年が始まるのだという清々しさが市場にも漂っている。
小書店のある通りでは、大きな別れが待っている。65年続いた「池原化粧品店」が閉店するのだ。
70歳まで店を続けると決めていた池原さんがお母さんのお店を継いで50年。今年の12月31日が「池原化粧品店」の最後の日だ。
池原さんがこの通りに及ぼす影響はとても大きい。優しい笑顔でうんうんと深く頷きながら話を聞いてくれる彼女がいるだけで、安心するというか、なんだか大丈夫だという気持ちになれる。だから、みんな心配事や秘密を彼女に打ち明けるし、彼女はそれをすべて受け入れるような器の大きい人なのだ。人のいいところを探すのが上手な彼女と話していると、みんな幸せな気持ちになるのだろう。
お客さんも長く座る人が多くて、席を外せない彼女の代わりにお弁当を買いにいったこともあったし、わたしと向かいのKさんが店で鍋をするときなどは彼女を誘い、彼女が鍋を食べている間、店番などを買って出たりした。それくらい、お客さんが多い店なのだ。「あい、あやちゃん悪いさー」「大丈夫。小書店はいつも暇だから…」
 

店が閉店する前にと、乳液を買うついでにおしゃべりをする。
「わたしはね、本当は行きたい高校があってね。でも、母の体の調子がよくなくて。長女でもあったから、卒業してからはすぐお店を継ぐということになって先生とも相談して商業高校へ進んだのよ」
いつもは人の話を聞いてばかりの池原さんがゆっくりと話しだす。
「自分がね、お母さんの代わりに働かなければということがあったから、夢を持ちたくても持てなかった。だから、子供たちにはいつでも夢を持っていてほしかったの。お母さんは大学までは行かせられるよ。内地へは行かせられないけど、あなたたちが行きたかったら、沖縄の大学は行かせられるからねってずっと話してたよ」
彼女のお子さんがみなさん優秀だということは聞いたことがあったけど、話を聞いてみると、なるほど、彼女の育て方が素晴らしいのだった。
一生懸命働きながら子育てをしていた彼女は、このままだと体を壊してしまうと医者に言われたことがあったそうだ。彼女は、医者に言われたことを子供たちに正直に話した。すると、子供たちは家事を分担してやるようになった。それだけではなく、毎日交代制で閉店時の手伝いもするようになったという。「受験生のときまで手伝ってくれてねー。」夜になって店を閉める手伝いをするために市場へやって来る子供たちの姿を想像すると、胸がキュウとなる。思春期で一番親に反抗する時期なのに。
「子育ての勉強になるなぁ」と呟くわたし。「そうよ、子供にも仕事にも正直なことが一番だよ。そうすると、子供たちはわかってくれるからね。お客さんだってそうよ。」
仕事が忙しくてビーチには行ったことがなかった。でも、学期末には成績に関係なく3人の子供たちと一緒にホテルに食事へ出掛けた。
「最初はビュッフェが食べたいと言うから昼食を食べに行ったのだけど、そうするとお客さんに会うのよね。だから、落ち着いてわたしたち家族だけの時間を過ごせるようにディナーを食べにいくようになった。それがわたしたち家族の恒例行事。だから、子供たちはビーチへは行ったことがなかったけど、小さい頃からフォークとナイフの使い方は完璧だった」と笑う。
「あ!あと、音楽!わたしは音楽が好きでね。音楽と本だけは買ってあげた。ゲームは一度も買ったことないんだけどねー。だから、子供たちは今でもみんな音楽が好きなの」
(そうそう、池原さんは小書店の本もよく買ってくれる。中でも、澤地久枝さんをよく読まれている)
池原さんは菅原洋一という歌手が昔から好きなのだそうだ。その菅原洋一が数十年前に参加した研修のゲストとして登場したことがあった。「わたしはなんてラッキーなの!」と感激したことを、今でも覚えているそうだ。まるで、若い女の子と話しているみたいだ。とても可愛いらしい人だから。
去年、その菅原洋一が沖縄でディナーショーを開いた。娘さんから「一緒に行こう」とすぐに電話があったそうだ。歌を聴いている間、涙が止まらなかった。「人生が重なってね、色々と思い出してずーっと泣いていたのよ。いつもはお酒を飲まない娘に、今日は一緒に飲もうって言ってね。飲んだら、またわーって泣いてね」
そう言いながら、池原さんはまた泣いた。「もう、最近は毎日泣いているのよ。昔のお客さんも来てくれるし、毎日が同窓会よー」
 

「あやちゃん、栄町はとてもいい町よ。みんなさ、すべてがうまくいっている人ばかりではないでしょう。弱い人や、大変なものを抱えているお客さんもいる。でも、そういうお客さんに接してきた分、とても優しくなれるんだよね。毎日、昔のお客さんが訪ねてきてくれると、やってきたことは正解だったなぁって思うよ。50年間正直にやってきてよかったなぁって。」
 

学生時代にも社会人生活でも出会いや別れを繰り返してきたはずなのに、市場に座ってからの出会いと別れが特別だと感じるのはなぜだろう。市場に座ってからまだ2年半そこらなのに、心に残る出会いと別れがたくさんあった。
人の人生をたくさん見てきたから、優しくなれるし、正直になれる。わたしが会いたかった人たちが市場にはたくさんいる。
そんなことを思った、2016年の年の瀬なのでしたー。よいお年を。

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宮里綾羽
沖縄県那覇市生まれ。
2014年4月から宮里小書店の副店長となり、栄町市場に座る。
市場でたくましく生きる人たちにもまれながら、日々市場の住人として成長中。
ちなみに、宮里小書店の店員は店長と副店長。

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