ほんとーく

2015年09月04日

ガラガラ石畳 Vol.6

garakanban

 

 

「72年の時を経て届いた歌」

 

 

  私があなたに惚れたのは ちょうど十九の春でした
  今さら離縁というならば もとの十九にしておくれ

 

 

 人から薦められて読んだ『十九の春を探して うたに刻まれたもう一つの戦後史』(川井龍介著)
私たちが知っている悲恋歌「十九の春」。この歌には多くのルーツがあるという。
ひとつの歌にこれほどまでに人々の想いや人生が宿り、広がって伝わってきたのかと驚嘆する。私が知っている「十九の春」はこの壮大な歌のひとつであって、その背景には無数の歌があるのだ。そのひとつが「嘉義丸のうた」だ。

 

 

―――太平洋戦争中でも、多くの民間の商船が日本の近海や東南アジア、南太平洋などを航行していた。大陸や離島や植民地に物資を運び、人間を乗せた。民間の船といえども、軍艦と同じようにアメリカの攻撃の対象となっていたのだ。

 甚大な被害を出しながらも、船舶の遭難の事実は国益に反する否定的な情報であり、すべて極秘扱いだった。そのため詳しい遭難状況は遺族にも伝えられなかった。こうして機密保持が優先されたために、当時は船に乗ることの危険性が十分に伝わらず、被害を拡大させたと思われる。

 撃沈されたうち約六割が魚雷攻撃によるもので、次いで空爆、機雷に触れての触雷、船艦などからの砲撃、という順序になっている。そして、これによって亡くなった人間の数は、船員だけでも六万人余りとなった。―――『十九の春を探して うたに刻まれたもう一つの戦後史』(川井龍介著)より

 

 

 本書では撃沈された嘉義丸に乗っていた人々も描かれている。特に沖縄出身の女性の話が印象に残った。
 16歳で滋賀県へ働きに出た彼女は、後に結婚して同郷の夫が働く大阪で暮らしていた。24歳のときに長男が生まれ一緒に里帰りをしようと嘉義丸に乗った。前年の里帰りで息子は両家の両親にとても可愛がられたのだそうだ。
 船が攻撃されたとき、たまたま甲板に出ていた2人。彼女はそばにあったロープで息子を必死に自分の体に縛りつける。
海に投げ出され、息子を必死で背負ったまま数時間後に小さな漁船に助けられた。
病院に到着したとき、看護婦から妊娠していることを教えられた。一方で、3歳の息子はすでに冷たくなっていた。

 

 小雨が降る静かな午後、店番中に「嘉義丸のうた」を聴いていた。
すると、Jさんがひょっこりと顔を出す。彼女は私が栄町市場に座り始めたころから仲良くしてもらっているお隣さんだ。80歳という年齢が信じられないくらい若々しい。
 彼女の差し入れてくれるものは自家製バンシルーのハチミツ煮や自家製唐辛子のオリーブオイル漬けなど、とても洒落ている。小書店で購入する本を見ても、新しいものをどんどん取り入れることが好きなのだとわかる。頭の柔らかい、いつでも前を向く姿勢がかっこいい人だ。
彼女もどうやら暇を持て余しているらしい。「一緒に歌聴こー」と誘うと、いいよー、といつものように明るい返事が返ってくる。
2人で「嘉義丸のうた」を聴いていると、彼女が言った。
「この船知ってるよー。田舎に嘉義丸から助かって帰って来た夫婦がいたよー。子供がたーくさんいたけど1人も戻ってこなかった。3、4人?いや、もっといたはずだけど。そのときね、お腹に赤ちゃんがいたのよ。生まれたその子は大きくなっても1人では座れなかった。その後は子供をつくらずに夫婦でずーとその子の面倒を見ていたさー」
本に出てくるエピソードとあまりにも似ていて驚いた。それだけ多くの人があの戦争で死んだということなのか。
「あやちゃん、もう一回聴かせて」

 

  親を恋しと泣く子らの いとし子呼んで泣く親の
  嘆きの声が聴こえたら 御霊よ天の星となれ 御霊よ天の星となれ

 

海に投げ出されて死んでいった無数の命。そのひとりひとりに親がいて子供がいて、妻がいて夫がいて恋人がいた。慎ましくも幸せな生活があり、彼らは故郷に帰るのを楽しみにして船に乗った。孫を見せに、長い仕事を終えて家族のもとに帰る。
「嘉義丸のうた」に込められた壮絶な悲劇を72年の時を経て私は知った。
彼らの気が遠くなるほどの苦しみに、私は少しでも触れられただろうか?
いや、触れられない。触れることはできない。
それでも、本書や「嘉義丸のうた」を知った私は以前の私とは少し違うのだろう。
ディテールを知ることができたから。
ディテールは大事だ。私のような想像力の乏しい者でもこんなに苦しいのだから。

 

 

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宮里綾羽
沖縄県那覇市生まれ。
2014年4月から宮里小書店の副店長となり、栄町市場に座る。
市場でたくましく生きる人たちにもまれながら、日々市場の住人として成長中。
ちなみに、宮里小書店の店員は店長と副店長。

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