ほんとーく

2016年12月09日

ガラガラ石畳 vol.12

garakanban
 

 

最近、暑かったり寒かったりで、店番の服を選ぶのも難しくなってきた。寒いときには20度を下回りそうなのだから、辛い。ブルブル。
 

間口が大きく開きっぱなしの小書店は、風が吹けばまるで外にいるようだ。そんなわたしの店番を支えてくれているのは、「おかず屋かのう」の温かいスープやおでんだったりする。
市場に座るようになってからしみじみ思うのだが、寒いときに食べる温かな食べ物は体だけじゃなくて心も労ってくれる。
小書店の向かいのKさんと並んでスープを飲む。具沢山で生姜たっぷりのスープはすぐにわたしたちのお腹を満たしてくれた。
「みそ汁って温まるねー。でも、すぐお腹いっぱいになるさー。おかず食べきれなくなるのが難点だ」とKさんが言う。
「わたしはお腹いっぱいになってもみそ汁あったほうがいい。具がなくてもいいから、スープだけでも飲みたいよ」と言うと、「あい、あやちゃんのみそ汁は太平洋ね?」
Kさん曰く、具のないみそ汁を沖縄人は太平洋と呼ぶらしい。知らないの?とびっくりされたが、全然知らない、、、なんてスケールの大きな言葉なんだ。ただのみそ汁が大海原に見えてくる。
太平洋のことをさっそく店長に話すと、やっぱり聞いたことがないという。「豆腐だけ浮いていたらなんて言うのかな?太平洋ひとりぼっち、かな」
 

市場に座り始めてから、このような新鮮な言葉遊びをよく耳にするようになった。
例えば、「足が三本あるねー」。昨日まで元気に歩いていた人が杖をついて歩いていると、挫いたの?どうしたの?と聞く代わりに、「あい!足が三本になっているさー」と話し掛ける。杖を足に見立てるとは。ウィットに富んだ言葉だ。
車社会である沖縄で自家用車やタクシーに乗らずに歩く人には、「テクシーに乗ってきたの?えらいねー」と言う。テクテクよく歩く人のことをタクシーになぞらえたらしい。響きもかわいいし、テクシーに乗ってきた人は「テクシーはタダよ〜」なんて返したりもする。
店番中によくある会話なのだが、年配のお客さんが「本は昔よく読んだよー。でも、最近は目が見えなくなってるからねー」
そしたら、すかさずKさんが言う。「目が四つになったんだ」
「足が三本」と同様、ネガティブになりがちな体の不調や老化を笑いに変えるユーモアのある言葉だ。老眼になり老眼鏡をかける様を見て、目が増えたじゃん!的な。
わたしが一番好きな言葉は、「デザートがある」だ。市場には病院帰りやこれから病院へ行く、というお客さんが多い。「薬がまた増えるんだよ。もう、いやさー」それに対して、「デザート増えたんだねー」
言われたお客さんはクスッと笑うし、「わたしは、デザート二個あるさ」「わたしなんて、五つよー」と、会話が広がっていく。スマートでお洒落な会話だなぁといつも感心してしまう。
まだまだあるけど、すぐに思い出せないなぁ。メモしときなさいって店長に言われたときにメモしておけばよかった。
 

Kさんは言う。「ちょっとさ、落ち込むことでもこういう風に話したら角が取れて丸く聞こえるさーねー。足どうしたの?って聞かれるよりも、足が三本になっているって言った方が相手も話しやすいのよ」
最初は戸惑ったけど、これは不謹慎なことじゃない。わたしみたいな青二才が言うのはもちろん角が立つだろうけど、色んな経験をしてきたであろう人がこのような言葉を発するとき、救われることもあるんじゃないだろうか。
人ってどんな状況でも笑うことができる。一緒に笑う人がいると苦しさが少し減るということは、市場に座っているとよくわかる。
この楽しい言葉遊びは優しさだ。あんただけじゃないよ。人生は辛いことも苦しいこともあるさ、わたしも同じよ。わたしたち、よく頑張ってるよね。って声を掛け合っている。
この優しさと洒落た言葉遊び、わたしももっと学びたい。あと、20年くらい経ったら使いたいな。いや、あと30年後かな。

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宮里綾羽
沖縄県那覇市生まれ。
2014年4月から宮里小書店の副店長となり、栄町市場に座る。
市場でたくましく生きる人たちにもまれながら、日々市場の住人として成長中。
ちなみに、宮里小書店の店員は店長と副店長。

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